わたしがこの道を選んだ理由
津嶋 勇士(株式会社FONTOLABO代表取締役/一般社団法人やまねこふくし創造舎代表理事)インタビュー
── 福祉の道を歩み始めたきっかけを教えてください。
津嶋:
最初は、沿岸の町役場で福祉担当として働いていました。
行動障がいのあるお子さんの受け入れ先を探していたのですが、
どこに相談しても「難しいですね」と言われるばかりで、
行き場のない現実を目の前にしました。
お母さんが窓口で泣かれた日のことを、今でも覚えています。
そのとき、「行政の仕組みの中だけでは、届かない支援がある」と感じました。
できることは限られていても、
“限界の外側”に目を向けなければならないと思ったんです。
── その後、台風の被災地支援にも関わられたそうですね。
津嶋:
はい。あの町を大きな台風が襲った年でした。
避難所で過ごす人たちの顔を見ながら、「安心」という言葉がどれほど重いかを思い知らされました。
そのとき、全国から集まってきた民間の支援団体の人たちと出会いました。
彼らは、誰かの指示を待たずに、目の前の困りごとを見つけては淡々と動いていました。
迷いも、見返りもなく。
ただ、人を思うままに動いていた。
「ないなら、自分たちでつくろう。」
その言葉が、胸の奥に静かに残りました。
その出会いが、いまの自分の原点になっています。
── 北上市に戻られてからは、相談支援専門員として活動を。
津嶋:
はい。知的障がいのある方の支援を担当し、放課後等デイサービスでは発達障がいの子どもたちやご家族と関わりました。
現場に立っていると、支援とは“助けること”ではなく“いっしょにいること”だと感じます。
言葉にならない想いに耳を傾け、小さな「できた」をいっしょに喜ぶ。
そうした時間の積み重ねが、「この場所にいていい」と思える安心を生むのだと思います。
── 「陽だまり」を引き継がれたときのことを教えてください。
津嶋:
「多機能事業所陽だまり」が閉所の危機にあると聞きました。
この居場所がなくなることで、行き場を失う人たちがいると思ったら、いてもたってもいられなくなりました。
職員の確保、資金の調達、手続きの引き継ぎ……。
初めてのことばかりでしたが、“守りたい”という気持ちが支えになりました。
人がつくった灯りを絶やさずに残すこと。
それも、支援のひとつのかたちだと思います。
── 行政書士としての活動も続けてこられました。
津嶋:
令和2年に行政書士事務所を開業しました。
“親なきあと”を支える成年後見の仕事に携わりながら、制度の中にも“人の想い”を届けたいと思うようになりました。
仕組みを整えるだけでは、人は幸せになれません。
でも、仕組みがなければ、やさしさは続かない。
そのあいだをつなぐのが、私の役割だと思っています。
令和7年には、岩手県行政書士会北上支部長に就任しました。
法と福祉、制度と現場。
そのどちらにも足を置きながら、地域に貢献できたらと思っています。
── 「やまねこふくし創造舎」という名前には、どんな意味がありますか。
津嶋:
宮沢賢治の作品に登場する“山猫”が好きなんです。
自由で、ちょっと風変わりで、でも誠実な生き方をする存在。
そんなふうに、自分たちも枠にとらわれず、新しい福祉の形を創っていきたいと思いました。
「やまねこふくし創造舎」は、子どもから大人まで、ひとりひとりが自分らしく過ごせる居場所をつくるための法人です。
生活介護、放課後等デイ、児童発達支援など、それぞれの人生に合った“居場所”を形にしています。
── そして株式会社FONTOLABO、グループホーム「ソラノサト」へと広がっていったんですね。
津嶋:
そうですね。
2024年に設立したFONTOLABOでは、「福祉にデザインの力を」というテーマで新しい挑戦をしています。
放課後等デイサービス「iBLENDぴぃす」では、アナログゲームや音楽療法を通して、子どもたちの“できた”を育てています。
そして2025年、グループホーム「ソラノサト」が誕生しました。
“空と光”をテーマに、その人の時間が穏やかに流れるような場所を目指しています。
支援の場を、「生活の場」に。
その違いを、言葉ではなく、空気で伝えていきたいと思っています。
── ここまでの道のりを支えてくれたものは何ですか。
津嶋:
一緒に理念を信じ、歩んでくれる仲間の存在です。
私ひとりでは、何もできませんでした。
それぞれが違う強みを持ち、困難な時も笑顔で現場を支えてくれたスタッフがいました。
理念を言葉で語ることは簡単ですが、それを毎日の支援の中で“行動に変える”のは、現場に立つ仲間たちです。
理念は、紙に書かれた文章ではなく、
それを生きる人の姿によって、初めて本物になる。
そう感じています。
── 最後に、これからの展望を教えてください。
津嶋:
「ここにいていい」と思える場所を、もっと増やしていきたいです。
子どもも大人も、支援する人もされる人も、誰もが自分のままでいられる社会。
それは、特別なことではなく、“人が人を想う”という、あたりまえの文化だと思うんです。
やさしさが巡る社会を信じて、これからも静かに、丁寧に歩いていきます。
